嘗て日本でも邦訳が出るなどした、ブルガリアの大小説家(1909年6月25日‐1966年4月1日)であります。
陸軍将校の家に生まれ、早くから芸術、自然科学、語学に才能をみせました。南米へ行ってスペイン語と家畜解剖学を生かそうと望んだが果たせず、国内各地で獣医として働き、のちスペインに留学しました。長編『ベンツ中尉』(1938)を皮切りに、スペインを舞台に崩壊していく西欧ブルジ ョア社会を描いた『のろわれた魂』で名声を得ました。戯曲『アルコ・イリスでの休息』(1963)、短編、旅行記など多くの作品を著し、ブルガリア作家同盟会長、バルカン作家同盟理事会会長も務めました。
とりわけ話題をさらったのは長編小説『タバコ』(1951)で、2年後の1953年にディミトロフ賞を受賞しました。この作品でディモフは、ブルガリアの資本主義的経営の典型であるタバコ工場を舞台に、共産主義者や労働者の対資本家闘争、ブルガリアのブルジョアジーが背負った歴史的運命、その罪と不道徳性などを描きつつ、個人が集団のなかで孤独になる問題を扱い、ブルガリア文学では未知の、資本主義社会における心理的迷路に立ち入ってみせました。発表されるや大きな反響をよび、ディミトロフ賞を受賞しましたが、作者は翌1952年、作家、批評家、読者による討議の結論を(¿不承不承?)受け入れて補足改訂しました。以来ベストセラーを続け、1961年にはN・コラボフにより映画化もされました。十数か国語に訳されています。邦訳もあります。
文学以外の業績を付け加えますと、1953年にソフィア大学獣医学部の教授となり、研究論文も多く発表しています。