ロムロ・ガジェゴス 『ドニャ・バルバラ』
〈ロス・クラシコス〉 植民地支配を断ち、独立して100年有余。迫りくる北の米帝国の脅威に対抗して、国家統合へと向かう20世紀初頭のベネズエラの平原を舞台に、スリルに富む冒険物語と恋愛ドラマで描く大作です。1929年発表されたラテンアメリカ文学の古典で必読書であります。
Doña Bárbara es una novela escrita por el venezolano Rómulo Gallegos y publicada por Editorial Araluce, el 15 de febrero de 1929. Ha sido reeditada más de cuarenta veces y traducida a otros idiomas. Consta de tres partes y se desarrolla en los llanos de Apure en Venezuela, en los predios del Río Arauca.
Doña Bárbara es la novela venezolana más popular: desde su aparición, en 1929, se leyó con avidez quizás porque entre líneas Gallegos expresaba su rebeldía al régimen dictatorial y al atraso que vivía el país. Superando ese momento, Doña Bárbara mantiene su gran prestigio porque continúa siendo el símbolo de la lucha que entabla en nuestro continente, el hombre marcado por la cultura occidental con una naturaleza violenta y con otros hombres rebeldes.
この作品の作者ロムロ・ガジェゴスは、中央政府による未開地域の統合、文明による野蛮の克服という国家的プロジェクトの遂行という、2つのものを結び付けました。
同時代の地方主義作家の例に違わず、ロムロ・ガジェゴスも実証主義の影響下でベネズエラの首都カラカスの大学教育を受け、西欧を規範として文明化を目指す国家事業に携わった進歩的知識人でした。特にロムロ・ガジェゴスが重視したのは教育で、ジャーナリズムと並行して1920年代から本格的に取り組んだ小説創作も、国民に向けた教化活動の一環だったと言って良いでしょう。
1925年発表の『トレパドーラ』でミランダ州のコーヒー農園を描いて以降、ロムロ・ガジェゴスの小説は、ジャノ、セルバ、海岸部など、次々とベネズエラの未開地域に舞台を移し、現地の状況や諸問題を首都の知識人層に伝達する役割を果たしました。その中でも「文明か野蛮か」に対するロムロ・ガジェゴスの観方を最も鮮明に映し出し、「文明化小説」の雛形を打ち立てたのが、現在までラテンアメリカで読み継がれる名作『ドニャ・バルバラ』(1929) です。
1927年4月に初めてアプレ州のジャノを訪れたロムロ・ガジェゴスは、この「広大、獰猛、憂鬱」の地に秘められた未来への可能性を感じ取るとともに、現地で聞いた「男を貪る女」のおぞましい逸話に、「ベネズエラ政治史の領域で今まさに起こりつつあることの象徴」を見出し、文明による野蛮の克服を中心主題に据えて新たな創作に着手しました。
以前拙ブログでも紹介したベニート・ペレス・ガルドスの代表作『ドニャ・ペルフェクタ』(1876)がおそらく念頭にあったからでしょうが、ロムロ・ガジェゴスは、ベネズエラの周縁部を支配する野蛮の化身とも言うべきこの女性を「ドニャ・バルバラ」すなわち「野蛮夫人」として登場人物にすることを思いついたのです。辺り一帯を牛耳る暴君ドニャ・バルバラの周りに、その抑圧に苦しむ人々の代表として彼女の娘マリセラと、首都の大学教育を終えた後にジャノへ乗り込む進歩主義者サントス・ルサルドを配し、小説の構図はできあがりました。バルバラ☞野蛮、サントス☞文明、マリセラ☞未開の自然、という単純な象徴構図のもと、3者の間に愛憎のドラマを展開させることでロムロ・ガジェゴスは、そこにベネズエラの未来へ向けた国家統合の視野を打ち出しました。ここで、ロマンスの恋愛ドラマは小説の単なる付属品ではなくなり、政治的イデオロギーを伝達する寓話となっています。
第一部第八章に描かれた暴れ馬の調教の場面を筆頭に、随所に物語の行方を暗示する逸話を鏤めたこの小説の結末は以下のようなものです。当然ながら、最終的にサントスはバルバラを放逐し、辛抱強い躾と教育によって、「ぼろぼろの服に身を包んだ野生児」だったマリセラを「文明化とともに繁栄するジャノの美し い未来像」に変えます。両者の結婚によって、「未来に向かう一本の真直ぐな道」が引かれたところで、『ドニャ・バルバラ』は幕を閉じるのです。
2人の結合は、洗練された都市文明と潜在的な豊かさを秘めた未開地帯の融合から生まれ るベネズエラの未来を象徴しています。現代の読者にはあまりに短絡的な物語に見えるかもしれませんが、文学的素養に乏しい当時の新興知識人層惹き付けたのは、この分かり易い楽観的観方だったのです。政治的にはロムロ・ガジェゴスと立場を異にしていた当時の独裁者ファン・ビセ ンテ・ゴメスですらこの小説を称賛し、文人のお手本と評価した事実は、『ドニャ・バルバラ』が如何に広く当時の読者に受け入れられたかを物語っています。1937年には文部大臣を務めるなど、ロムロ・ガジェゴスが後に教育関係の要職を歴任したこともあって、特に1940年代以降、『ドニャ・バルバラ』は政府系の出版局から、国民全員が読むべき推薦図書、さらには教科書として繰り返し再刊されることになり、ベネズエラ文化に深く浸透していったのです。